読了。

赤い長靴  江國香織


『神様のボート』を読んだ時に感じた狂気。それと同じような感覚を受けた作品だった。
結婚して10年の日和子と逍三、子どもはいない。通じない言葉、噛み合わない会話。それは普通夫婦仲の悪さの象徴のように思えるけれど、江國さんの手にかかると不思議なことにそれとはちょっと違う、いつも似たような感情に満たされる。そしてそれをうまく言葉にすることができない。
日和子と逍三は救いがたいほど不幸のように見える。とともに、互いに唯一無二の存在であり、日和子は逍三が、逍三は日和子がいることでこの上ない幸福に包まれていることはたしかだ、と感じさせられる。うすら寒い幸福。甘美な空しさ。タイトルである「赤い長靴」のエピソードにどうしようもなく泣きそうになってしまった。
江國さんの生み出す物語を読んでいつも私は考え込んでしまう、孤独というものについて。依存というものについて。もしかしたらこれは私の一生のテーマかもしれない、とおもう。


赤い長靴

赤い長靴


8月の果て  柳美里


自分は何処からきて、何処へ行こうとしているのか―。
在日韓国人である著者自身のルーツを辿る私小説、でいいのか。ちょっとすごい作品だった。圧巻され通しで読むのにすごく時間がかかった。
まず分量がすごい。文体がすごい。内容がすごい。
激動の時代(日本の朝鮮半島植民地政策や朝鮮の抗日運動、従軍慰安婦など)に朝鮮慶尚南道・密陽に生まれ、歴史に翻弄された(という表現が正しいかどうかはわからないが)幻のマラソンランナーである著者の祖父・李雨哲(イ・ウチョル)から著者・柳美里へと続く流れを歴史とともに追う800頁。
作品としての良し悪しや読後の感想などとてもすぐには言えない。私小説と歴史を同時に描く事には賛否両論が付きまとうと思う。それでもやはりこれを書ききったことはすごい、と言わざるを得ない。日本人である私にとっても切り離すことができないこと。ちゃんと頭と心で考えなければならないこと。


8月の果て

8月の果て