誰も知らない


今日はレディースディということもあり、朝10時の回を観るために結構早めに行ったのだけど、それでも長蛇の列ができていた。なんとかギリギリ入れて前より3列目で観ることができたのだけれど。この映画はもしカンヌで賞をとっていなければもっとひっそり公開してたんだろうな。もちろん賞を取ろうが取るまいが素晴らしい映画だと言うことには変わりないと思うけれど、連日満員の劇場を見るとやはり賞を取るというのはすごい影響力があるんだなと変に感心してしまう。とともに、賞レースなど世間の評価に振り回されることなく、ちゃんと自分の目でみて感じることを忘れちゃいけないなと思うこの頃。
それにしても本当に素晴らしい映画だった。

都内のアパートで幸せに暮らす母親と4人の兄弟。兄弟の父親はみな違っていてそれぞれ会ったこともない。子供たちはみな一度も学校に通ったこともなく(そもそも戸籍すらないのかもしれない)長男を除く3人はアパートに住んでいるという事実すらも隠され、世間的には本当に『誰も知らない』存在。監督の是枝祐和さんは、昔実際に起きた事件・西巣鴨の子供置き去り事件をこの映画のモチーフとし、それから15年かけてこの映画を完成させたと言っているが、作品ではその事件性や母親の行動の良し悪しではなく、この兄弟の真っ直ぐな視点で見たおとな、今の社会を映し出しているように思えた。
おとなから与えられた限りなく小さな自分たちの世界の中だけで、彼らは信じられないほどたくましく生きている。まだ幼い子らは母親を無心で信じ天真爛漫に、思春期に差しかかった子らは母親を慕う気持ちと絶望する気持ちを両方抱えながら、でも皆揃ってたくましく生きている。結果的には自分たちを捨てた母親でも、子供たちはお母さんが大好きで真っ直ぐに愛情を求めている。
彼らのあまりに自然な、日常としか思えないような演技を見ていて、自分も完全に子供の視点になってしまっていた。子供にかえってしまっていた。特に長男・明の複雑な心の中。学校のこと、友達のこと、弟や妹たちのこと、大好きな母親のこと、今の生活のこと、そしてこれからのこと・・・。明役の柳楽優弥くんの汚れの無い、でも何もかも悟っているような強い眼差しが今も頭の中にまざまざと残っている。子供たちにとって辛すぎるいろんな出来事、切ない気持ち。それでも涙せずに観たいと思い続けていた。私達おとなの誰もがこういう心を持っていたときがあったのだと。実際には涙を我慢することはできなかったけれど。
今年一番心に残った作品かもしれない。