納屋を焼く  村上春樹著  ISBN:4101001332


何度読んでも好き。何度読んでも怖い。どんどん怖くなっていく。


時々納屋を焼くんです。

突然彼が言う。

簡単な話なんです。ガソリンをまいて、火のついたマッチを放るんです。ぼっといって、それでおしまいです。焼けおちるのに十五分もかかりゃしませんね。

何故そんなことをするのか質問する僕。それは犯罪行為でもある。
彼は火事を起こしたいのではなく、ただ納屋を焼きたいだけなのだと言う。

世の中にはいっぱい納屋があって、それらがみんな僕に焼かれるのを待っているような気がするんです。(略)
十五分もあれば綺麗に燃えつきちゃうんです。まるでそもそもの最初からそんなもの存在もしなかったみたいにね。誰も悲しみゃしません。ただ――消えちゃうんです。ぷつんってね。

僕は彼が近々焼く予定にしているという近所の納屋のありかをすべて調べ、毎日ジョギングがてら見て回るが、どの納屋も何日経っても焼かれることはない。



この彼は『ダンス・ダンス・ダンス』に出てくる五反田君とかぶる。というより五反田君そのもの。
私の勝手な解釈だけど、ここでの「納屋」は「女性」、すなわち「納屋を焼く」は「女性を殺める」ということ。春樹さんは隠喩を使うのがとても巧みだけど、この喩えはすごいと言うしかない。読み込んでいくと恐ろしいけど、春樹ワールドが凝縮された短編だと思う。