最近読んだもの。


ナラタージュ

ナラタージュ


主人公の心の中、感情は痛々しいほど激しくて、なのにその描写はとても静かで。その落差が読んでいる私の中にずしっとのしかかったまま読みすすめていくという感じだった。二十歳そこそこの人が書いたとは思えない。確かな筆力をもった作家だと思うし、これからを期待される人なのだろうなと思う。
ただ、この小説は再び読みたいとは思わないだろう。一度で充分、満たされた。


対話篇

対話篇


金城氏の作品は痛快な青春小説の類しか読んだことないので、この人がこんな静かな文章を書くのには少し驚いた。3編の短編のうち冒頭の「恋愛小説」のエピソードを読んでいて少し村上春樹を連想した。似てはいないのだけどなんとなく。
シンプルな装丁が素敵。



食卓の力 「くり返し」を楽しむ暮らし

食卓の力 「くり返し」を楽しむ暮らし


前に読んだ「食卓のこころ」とあわせて、やはりこの人のエッセイは好きです。食べることを通していろんな話が綴られているのだけど、食というのは生きる上での基本であり、食に向き合う気持ちは生活する上で色々なことの基本になるのだなあと、この人の言葉を読んでいたらしみじみ感じる。
ちょこちょこと書かれているイラスト(というか、絵)も温かみがあっていい。



空中庭園

空中庭園


「なにごともつつみかくさず」がモットーである一見理想的な一家、京橋家。でも実は家族それぞれが秘密事を守りながら生きている。
この作品は映画化されたと同時に監督豊田利晃氏の事件により公開されないのではと一時は言われていたけれど、現在公開中のようで。京都では12月にみなみ会館にて公開とのこと。キャストを知っているので、読んでいてどうしてもキョンキョンソニンがちらついてしまう。チョロQパパ役の板尾はぴったりな感じ。
角田さんの小説は結構拒絶反応を起こしてしまう私だけど(エッセイは好き)これは面白かった。登場人物がやたら間延びした喋り方をするのがどうしても苛々してしまうところはあるけど。
こういう家族って寒いと思ってしまう私にだって、確実に同じような要素が含まれているはず。滑稽で哀れで恐怖で、でもやっぱり愛すべき人間関係なんだ家族って。

外部の人間には閉ざされたオートロック式のドアが、自由に出入りできる家の中に存在している。
その鍵は、外部に対して閉ざされているのではない。身内の侵入を防いで閉ざされているのだ。だから今、テーブルを囲んでここには五つのドアがある。頑丈な鍵のかかったおそろいのドア。
五つのドアそれぞれの向こう側に、きっとグロテスクでみっともない、しかしはたから見たらずいぶんみみっちい秘密がわんさかとひしめいて――これから先ずっと繁殖しつつひしめき続けるのだろう。