最近読んだ本。


三三七拍子 (幻冬舎文庫)

三三七拍子 (幻冬舎文庫)


1997年から2000年にかけて書かれたエッセイ集。
この人のものを見る目の鋭さ。そして自分の目で見て感じた、一言では言えないような複雑な感覚を表現しようとする真摯さ。主流な意見に決して惑わされない目、それはこの人の正直さと誠実さを映していると思う。テレビで垣間見るキャラクターしか知らないとそれらの物言いはただのあまのじゃくと感じてしまうかもしれない。でもラジオや書いたものを聴いたり読んだりしていると、誠実さとはこういうことをいうのだなぁ、と深々と思う。


たとえば学歴詐称疑惑のサッチー事件(懐かしい)でマスコミの「何故そんなに学歴にこだわるのか、人が見るのは現在の彼女自身で過去の学歴など関係ないのではないか。それを信じて投票した人の立場はどうなるのか」という言葉の矛盾、嘘っぽさ。この事件に関わらず、例えば自分が投票した政治家が不祥事を起こした場合なども(最近の誰某の事件にも言える事だなぁ・・)それを自ら選んで信じた自分を省みることなく、むしろ「騙された!」と憤る人たち。不祥事そのものの是非ではなく、何でも人のせいにして自分を振り返ることのない愚かさ。まさに今の時代はこういう考え方で溢れかえっているように思う。

(自分の感じた)感覚を正確に人に伝える為には、自分の中の漠然とした複雑な感覚を誰にでも解る具体的な“見えるもの”に変える作業が必要で、それが、芸だと私は思っている。


とても素敵な人だ。



博士の愛した数式

博士の愛した数式


あー、まだ余韻を引きずってる。いとおしい気持ちでいっぱいになった。
読むまでずっと、これはいつもの小川洋子の作品とは一味違うんじゃないかとなんとなく思ってしまっていて、なかなか読めないでいた。でもそんな心配は全く要らず。今まで読んだなかでイメージしていた小川洋子の作品より少しだけ、ほんわかした暖かさに包まれている話だった。
こういうのは映画化したいと思っちゃうんだろうな。だけどこの本には映像に変換できない言葉が溢れているように思う。フランスで映画化された「薬指の標本」はすごく興味あるのだけど。この人の書くものは日本映画ではまずしっくりこないと思う。というかきてほしくない。
いつまでも浸っていたい、博士と私と10歳の息子√。三人で過ごす夕方の風景。