偶然の音楽  ポール・オースター


一言で言うとすればクールな小説。本当の自由って何なんだろうと考えさせられる。もちろんオースターはその答えを提示はしてくれない。
妻に去られた消防士のナッシュに突然父の死による遺産が転がり込んだところからストーリーが始まる。望みのないものにしか興味が持てないというナッシュは1年とちょっとの当てのない放浪の末に一人の若いギャンブラーと出会い、彼に自分の人生を託すことになる。
オースターの著では『ムーン・パレス』がとても印象に残っていて、主人公の自分探しの旅とでも言うか、どん底まで突き落とされたあとに本当の自分の人生の意味を見出すというストーリーにあっぱれという気持ち良さに浸れた作品だったけれど、同じ自分探しの旅(?)でも『偶然の音楽』の方はさらなる不条理感が立ち込めていて物語の行方はとてもシュール。
「いいことが起きるのは、いいことが起きるのを願うのをやめた時に限られる」というようなことを『ムーン・パレス』で主人公は言っているが、本作では運命には一貫性などなく偶然にも必然にもどんな不条理な事でも起こり得る世界に主人公は投げ出され、見方によっては本当に救いがない。読後すっきりせずしばし考え込んでしまう作品であった。この先何度も読み返し、行間を読むことにより自分でその都度答えを求めていくような、そういう意味ではとても深みのある小説であると思う。