キッチン 吉本ばなな 


『キッチン』に収録されている『ムーンライト・シャドウ』が良い、と何度か耳にしていたので、借りて読んでみた。
恋人を事故で失った女の子(主人公)。絶望というものの正体を知り、もがき苦しんで、やがて自分で答えを出してゆく物語。大切なものを失うということは自分の身に降りかからない限りどんなものか計り知れない。黒い姿をした、想像できないくらい巨大な孤独がやってきては潜み、またふいに現れる、その繰り返しが人生だとしたらやっぱりこの世は不条理だ。そんなことは一生経験したくない、と思う。でもそれを経験した人だけが持つある種の優しさを考えると、人生って皮肉だけど捨てたもんじゃないとも思える。人間は日々弱さをもって生きていても、本来は強いものだ、と思える。
ラストで彼女は「私は幸せになりたい。だからもうここにはいられない。」と言って、愛した彼との思い出に訣別(ある意味で)する。そしてその後も人生は続く。『キッチン』でもそうだが、静かに戦って克服し生き続ける、人間の本来の強さを作者はしつこいくらいに語っているように思える。
関係ないけど「欲と愛のバランスに苦しむ」という表現に、うーんと唸ってしまった。
吉本ばななの作品は『ハチ公の最後の恋人』に続いて二度目だけど、読んでいて反発する部分と共感する部分が両方ある。キッチンを読み始めた時ははなり拒絶反応が出てしまった。言いたいことはわかるんだけど、今ひとつ主人公を好きになれない感じ。登場人物の会話の仕方がなんだか鼻についてしまう。でも脇で登場する人たち(たとえばキッチンではえり子さん、ムーンライト・シャドウでは柊)は愛すべきキャラクターであって・・・。
もう一冊くらい、読んでみてもいいかな。